衛生設備の不完全は公娼を認めざる第一歩だと警視庁当局が曰うて居るが 真に金言である若し公娼にて衛生設備が不完全なれば全く公娼と曰ふ存在を失ふので 衛生設備が完全でこそ茲に公娼とし存在があり 立派に一の稼菜として当局が認めて居るである。 黴毒と曰ふやうな病気が我が国に渡米したのは何頃か一説には豊臣の末期文明人のポルトガル人が持つて長崎に上陸したと曰ふ事である、此の毒は一浮千里の勢で種ヶ嶋の鉄砲玉より早く日本中に拡つたと曰ふ話しだが日本としては本当に迷惑な文明国の送りものであつた、彼の金堀で有名な甲州浪人猿楽の大蔵が家康に見出きれ殆んど廃抗となつた、佐渡の金山をものにして忽ちの内に大久保石見守まで立身したが淫逸の限りを尽し遂には黴毒にかゝつて誇大妄想狂になつたと曰ふ事があるから何れにしても徳川家集以前輸入されたものに違ひがない、斯の如く潜行式に拡て行く病気だから予防撲滅と曰ふ事も中々困雛である。警視庁も此れには相当の苦心もし其の結果昭和三年四月法律第四十八号で花柳病予防法と曰ふ法令まで出して予防に努力して居る。然し法令のみにては決して予防の出来るものでない直接に関係する者の注意如何にあるので本組合は此の点に大いに意を用ひ先年来より副取締を衛生委員長とし協議員を衛生委員となし更に各町より二名宛即ち十二名を常設委員とし着々衛生設備の完璧を期しつゝあり今や梢ゝ完成の域に達せんとしつゝあるを以て完成の暁は絶無と曰ふ程には到らないか必ずや或る程度の予防はなし得るものと信じて居る。